助産師として働いてたとき、悪阻(つわり)がひどい人を多く見てきました。
対応は、点滴をするくらいです。
助産師ができることは少なく、見守ることしかできません。
吐き気止めや点滴を投与しても、吐き続けます。
胆汁まで吐いてしまったり、背中の骨がゴリゴリと浮き出るほど痩せてしまったりする方を見てきました。
悪阻は、終わりのない戦いのようでした。
妊娠悪阻とは、
- つわり症状が増悪する
- 体重減少5%以上
- 尿中ケトン体強陽性が続く
と診断されることです。
対処法は、入院させ、心身の安静、脱水、飢餓に対する治療をすることです。
- 糖を含んだ点滴に、ビタミンB1を添加する
- 増悪する場合は、吐き気止めを使う
- 深部静脈血栓症に注意する
脱水や動かないことで血栓ができ、それが肺や心臓に飛ぶと、命に関わります。
ウェルニッケ脳症という、意識障害が起きる症状を防ぐために、ビタミンB1は必須です。
参考文献:病気がみえる vol.10 産科 第3版 p84
1.悪阻(つわり)はつらい
私は妊娠し、すぐに悪阻が始まりました。
こんなに生きていることに絶望するほど、悪阻がつらいのかと思いました。
妊娠6週頃から気持ちが悪くなりました。
8週に入ったあたりから、においつわりが辛く、夫のにおいがダメになりました。
部屋を分けなければ、寝られませんでした。
男性のにおいがダメになりました。
普段ならわからないレベルのにおいで、吐き気を催すようになりました。
玉ねぎやにんにく、肉、魚、油のにおい、人のにおい、全てが気持ち悪かったです。
9週からは、嘔吐(1日に数回)するようになり、家のにおいも臭く感じました。
どこにも居場所がなくなってしまいました。
冬なのに、ずっと換気をしていました。
どこからかタバコのにおいがしたり、駐車場から男性のにおいが流れてくるだけで、吐きました。
空気の流れが変わるだけで吐いていました。
コンロのガスのにおいにも吐いてました。
犬並の嗅覚でした。
食べ物も、栄養成分表示を見ないと地雷を踏みます。
アイスでさえ脂質が無理でした。
脂質という文字を見るだけで吐きました。
2.体力もなくなる
家での生活は無理がありました。
電車で一駅ずつ降りては吐いて、最寄駅からはタクシーを使って、倒れそうになりながら仕事に行ってました。
電車で男性が近くにいるだけで、鼻をつまんでも吐き気に襲われ、電車が生き地獄でした。
気力だけでは、どうにもならなくなっていきました。
10週頃から、固形物はバナナのみ、飲み物はアクエリアスのみしか摂取できなくなりました。
午前中はまだ良いのですが、午後からは食べた物や飲んだ物を全て吐いてしまいました。
吸収できているかも分からない状況でした。
夜はほぼ絶食、アクエリアスのみ、少しづつ飲んでいました。
体力もなくなっていき、立っているだけで怠かったり、立ちくらみも起こしていました。
ある時、普通のご飯が食べられて感動しました。とても美味しいと感じました。
しかし夢でした。
こんなつわりがない食事ができる夢を見られて、久しぶりに幸せでした。
3.ケトン(飢餓の値)が出る
そんな生活で、尿が段々と出なくなってきました。
妊婦健診でケトン+1が出ており、医師に入院をすすめられました。
ケトン+3で悪阻の入院のイメージを持っていたため、断ってしまいました。
点滴をして帰宅しました。
点滴直後はいいのですが、十分な水分が飲めていないので、すぐに脱水になります。
これが状態を悪化させてしまい、私の尿はほぼ出なくなっていました。
脱水のせいなのか悪阻のせいなのか、歩くことすら、ままならなくなっていました。
このままでは死ぬと、入院を決めました。
入院時はケトン+2だったようです。
+3まで耐える必要なんてなかったです。
辛いものは辛いのです。
4.入院生活
入院することができました。
医療現場で働いていた私は、消毒のにおいや病院のにおいに慣れており、不快感はなく、むしろ快適さを感じました。
救われたような気持ちでした。
入院中は点滴をすることになりました。
この時で−5キロでした。
点滴棒につかまってゆっくりとしか歩けなかったのが、脱水が回復するとスタスタと歩けるようになりました。
吐きつわりはそこまでなかったのですが、同室の男性の面会者のにおいが、やはり無理でした。
夜になるとより辛く、絶望で泣いてしまったりもしました。
個室代をケチらず、個室に入っておけば良かったです。
入院して4日も経つと、つわりが軽くなったような気がしました。
尿もたっぷり出るようになりました。
しかし、1日4回点滴を変えてもらったり、看護師の夜の訪室、寝たきり生活で寝不足が続いていたりと、ストレスは溜まっていました。
5.食べられるようになった
食事が始まり、数口でもご飯が食べられるようになりました。
感動しました。
美味しくて、最初の食事は半分以上食べました。
肉と玉ねぎは、吐き気のする食べ物だったはずなのに、ハンバーグを食べました。
その後、自分の身体、胃から、肉と玉ねぎのにおいがずっとしていました。
気持ち悪くて吐き、においが抜けるまでの2日間、しんどい思いをしました。
1週間で元気になり、医師からも退院をすすめられました。
ただ、点滴が漏れやすく、漏れたタイミングで一気にやめてみたら、気持ち悪くなってしまいました。
それでも入院生活で麦茶を飲めるようになりました。
脱水にはもうなるまいと頑張り、脱水を回避する手段を手に入れることができました。
11週から12週の1週間程度の入院生活でした。
客観的に見ると、悪阻で入院している患者の中では、症状は軽い方だったとは思いますが、その後も悪阻は続きます。
6.トータル9キロも痩せてた
入院中、絶食期間もあったためか、家に帰って体重を測ってみると、妊娠前より9キロも痩せていました。
痩せている方ではなかったですが、お風呂に入った時に背中やお尻の骨がゴリゴリと浴槽に当たって痛いという経験をしました。
足も細くなっていて、かつ栄養不足のため肌がガサガサで、一気に歳をとったようでした。
急には食べられず、食べられても胃の中身を全部嘔吐するという生活は、しばらく続きます。
11週頃をピークに、18週頃までには落ち着き、つわりを脱することができました。
2か月間の悪阻で、何もできない状況が続き、冷蔵庫には賞味期限切れのものが多数ありました。
また、子どものように薄味しか食べられないようになったり、胃が小さくなって量が食べられなくなったり、自分の変化に驚きました。
普通のご飯が食べられて、1日を通して吐かなくなったのは20週(6ヶ月)くらいだったと思います。
7.悪阻は良くなる
最後まで悪阻が続く方もいますが、必ずピークは超えます。
大体16週までに胎盤が完成し、悪阻が改善するとは言われていますが、私は18週までかかりました。
通常のご飯を食べられるようになったのは、20週(6か月)頃でしたが、気持ち悪くないというのは、幸せだと実感しました。
天井を見つめたり、何週間も外に出られずに外を眺めているだけだったり、スマホをいじっても酔ってしまって何もできなかったり、地獄だと思える日々でしたが、笑い話になる日はきます。
悪阻が辛い方に、寄り添い共感できる心を持つことができたと思います。
もう体験したくはないものですが、いい経験になりました。